「ざまあみろ・・」。
一撃でヤツの息の根をとめた。ぴくりとも動かない。
俺は気がつくと微笑んでいた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

お盆も過ぎたその日、俺は夜11:30に帰宅した。
相変わらず仕事が忙しく、もうヘトヘトだ。
それでも冷蔵庫からよく冷えたワインを取り出し、
グラスに注ぎ、一口、二口と飲むウチに、
なんとか気持ちは落ち着いてきた。

Macを立ち上げ、日課のブログを書き込み、
一息いれるためにベッドへごろり。
あー楽だ。全身の疲労が、
大の字に広げた手や足、全身からベッドのマットに
吸い込まれていくようだ。
気持ちよくなってきた。
俺、このまま眠るのかな・・。
Macも蛍光灯もつけっぱなしだけど。
まあ、いいか。このまま眠ることができるなら、
きっと、すごくすっきりと朝を迎えられるだろう。

そこに、ヤツが現れた。
もう、うとうととし始め、レム睡眠に入った刹那、
耳元でヤツの近づいてくる音。
不快だ。
この不快感はヤツに間違いない。
俺は目を開けないでいた。
見ることそのものが、キモイからだ。
とりあえず無視し続ける。
何度か耳元でヤツが近づく音を聞いたが、
少しするとそれも止んだ。
ほっ。
これで眠れる。
そう思い寝返りをうつと、いなくなったと思ったヤツが、
あろうことか俺の太ももに触れ始めた。
冗談じゃない!やめてくれ!!
叫んだところでどうにかなるはずもないので、
ヤツが触れてるあたりにそっと左手を伸ばしてみた。
ふっとヤツはいなくなった。
いや、いなくなったわけではなかった。
次の瞬間、今度は右腕に触れ始めた。
頭に浮かんだのは、ヤツの口元。
いつもキスを求めるような、汚らわしい口元。
触れたのはヤツの手足じゃなく、もしかしたら
あの汚らわしい唇でそっと俺の体に吸い付いたのかもしれない。
俺はいてもたってもいられず、ふとんを引き寄せ
頭からかぶった。
熱帯夜、この状態で眠れるのか。
いいや、ヤツに触られるくらいなら、暑さにも耐えるさ。

ふとんは見事にヤツの気配を消した。
気づくと俺も眠っていたようだ。

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俺は子どもの時から寝相がよくない。
40歳を越えた今も、相変わらずだ。
朝になればふとんはどこへやら。
翌朝も、いつものようにふとんがなかった。
そのむき出しになった背中に、何かを感じる。
少し体をゆすると、それが消えた。
眠たい。とても眠たい。今はいったい何時だ。目はまだ開かない。
しかし明るさは感じる。夜中ではないようだ。
脳だけがほんの少し意識を取り戻した。
その時だ。またヤツの現れる音。
まさか・・ずっとそばにいたのか?夜中じゅう?!
ヤツがまた背中に触れてきた。
そうやって、俺が寝ている間も、もしかして触れていたのか?!
俺は愕然とした。
身をよじり、ヤツを振り払う。
すぐにヤツは離れるが、性懲りもなく今度は左の肩に。
振り払ってもまた違うところに。
きりがない。
まだ寝ていたい。俺は疲れているんだ。
今日もまた忙しくなるんだ。寝かせてくれ。
願うような気持ちでヤツを振り払うが、
あざ笑うかのようにまたすぐにどこかに触れてくる。
いいかげんにしてくれ!!
俺はヤツを見定めようとがばっと起きた。
直前まで膝に触れていたはずのヤツは、もういない。
ヤツの汚れた黒い姿も、あの落ち着きのないしぐさも、
俺は見ることがなかった。
深いため息をつき、目覚ましを見た。
まだ午前6時。いつも起きる時間より1時間は早い。
まぶたが重い。体がだるい。疲れがとれていない。
窓の外は青々と晴れ上がり、爽やかな天気だ。今日も暑くなりそうだ。
それと裏腹に、なんて気分の悪い寝起きだ。
最悪だ。
憎い。ヤツが憎い。
この朝から、殺意というモノが俺の全身を支配した。

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会社の帰り、俺は強烈な薬を買った。
ヤツには毒で死んでもらう。
のたうち回るヤツの姿が頭に浮かぶ。
なんだか俺は楽しくなってきた。

家にはいると、ヤツを捜した。
狭い家だ、ヤツはすぐに見つかった。
今度はヤツに気づかれないよう、台所にそっと忍び寄った。
しめた。まったく気づかれていない。
あとはヤツを目がけて、俺が天誅を下すだけだ・・。

「ジジジジジ・・ジジジジ・・ジジ」
ちょっとは悶えたが、ヤツはほぼイチコロだった。
さすが「キンチョールジェット」。
ジェットというだけあって、しゅぱーっと一吹きで息の根を止められた。
「3倍ジェット噴射、ハエ撃墜」のコピーは伊達じゃない。
これで今夜からまたゆっくり眠られる。


(ノンフィクションでした。)